売却後も移転不要。セールアンドリースバックとは?

自社ビルなどの不動産を様々な方法で活用している企業が増えています。例えば、売却して資金を調達する、いずれかのフロアをテナントに貸し出して賃料収入を得る、などの方法があります。今回は、売却することで資金調達をしながら、そのまま入居し続けられるというセールアンドリースバックという方法について見ていきましょう。

セールアンドリースバックの仕組み

セールアンドリースバックの仕組み

セールアンドリースバッグとは、所有しているビルなどの自社物件を売却したのち、その売却した物件と賃貸借契約を締結して、賃料を支払いながらそのまま入居し続けるという方法のことです。一般的な売却との大きな違いはこの「そのまま入居し続けられる」というところで、自社の所有物件ではなくなっても、慌てて次の物件を見つけて移転しなくてもいい点が大きな特徴です。また、移転には引越し代や移転の案内状送付、名刺や会社パンフレットのリニューアルなど様々な経費がかかります。こういったお金を掛けずに済むというのも、セールアンドリースバッグのメリットと言えるでしょう。電気・水道・電話などの移転手続きが不要など、手間がかからないというのもうれしいポイントです。ちなみに、セールは「売却」、リースは「賃貸」を指しています。

事業を続けていると、資金面で様々なことを検討する機会が出てきます。例えば新規プロジェクトを始める際には、ある程度の資金を投資して、回収していくという方法をとることがあります。そういった際には金融機関から借り入れるという方法もありますが、セールアンドリースバックの仕組みを利用して、売却で得た購入代金を新規プロジェクトの資金に充てるということも可能です。

資金調達の重要性

資金調達の重要性

資金とは、現金や預金など、すぐに自由に使えるキャッシュのことです。血液のようなものなので、資金が不足すると貧血状態となり、思うように経営が進められません。この貧血状態がひどくなると、資金繰りがうまく回らなくなり、支払いが滞ってしまうことも。最悪は倒産ということにもなりかねません。
経営者にとって、売上や利益というのが気になるところではありますが、会社が無理なく運営できるよう、この資金についてもしっかりチェックしていく必要があります。資金繰りについては、当月だけでなく先の動きを把握することが重要。そして、数カ月先であっても資金繰りが厳しそうだなと思ったら、早めに資金調達する方法を検討し、実行に移すようにします。
資金調達の方法としては、融資を受ける、資産を売却するなど様々。ちなみに、セールアンドリースバックは資産を売却するという中に含まれます。

仲介と買取の違い

仲介と買取の違い

不動産売却には、一般的に仲介と買取という2つの方法があります。仲介とは、不動産会社と媒介契約を締結したら、不動産会社が広く販売活動をし、購入希望者を募っていくという方法です。チラシやインターネットなどを見た購入希望者が不動産会社に問合せをし、内見などを通して購入する物件を決めていきます。最初に販売価格を設定して販売をスタートさせるわけですが、販売期間が長期化すれば、価格の見直しをすることもあります。注意点としては、いつ・いくらで売却できるか分からないというところです。すぐに現金化したい、資金が枯渇していて返済が滞りそうだなど、すぐにでも資金が必要な場合は、不向きかもしれません。

買取は、不動産会社がそのまま買い取ってくれるという方法。販売活動をしないので、現金が手に入るまで長期化することはなく、ある程度希望したタイミングに合わせて、取り決めた額で買い取ってもらえます。買取価格は、仲介の販売価格よりもやや低めに設定されることが一般的です。ただし、仲介でも販売価格を下げて購入希望者が決まるというケースがあるのは認識しておきましょう。セールアンドリースバックでは、買取となることがほとんどとなっています。

よく聞くリバースモーゲージと異なるポイントは

よく聞くリバースモーゲージと異なるポイントは

セールアンドリースバックに似た言葉として、リバースモーゲージがあります。混乱している方もいらっしゃるようなので、ここで解説しておきたいと思います。
セールアンドリースバックが、売却後に資金を手に入れてそのまま入居し続けるのに対し、リバースモーゲージは、所有する不動産を担保にしてお金を借り、契約期間終了時に売却して借りたお金を一括返済するという方法です。つまり、お金が手に入るという点では同じであっても、セールアンドリースバックは売却して得たお金であり、リバースモーゲージは借りたお金でいつかは返済すべきお金ということになります。そして、前者は所有権を失い、後者は所有権をそのまま引き継ぎます。
なお、リバースモーゲージは個人向けの商品です。法人では選択できない方法なので、注意が必要です。

賃貸借時の賃料が提示されるタイミング

賃貸借時の賃料が提示されるタイミング

机上査定が終わると、おおよその売却価格と一緒に家賃が提示されます。ただしこれらはあくまでも目安。現地に実際に出向いて査定を実施し、そこで算出された売却価格や家賃が提示価格と考えていいでしょう。実物を見るまでは、不動産会社側も正確な判断はできないという点は覚えておきましょう。

セールアンドリースバック、売主側のメリットとは

セールアンドリースバック、売主側のメリットとは

現金化することが可能

会社経営において、現金が不足してしまうと資金繰りが悪化し、経営が立ち行かなくなることがあります。そういった時に自社ビルを売却して現金化し、自由に使えるお金を手元に増やすというのは安心材料にもなります。このお金の使用用途は自由。融資では制限がある場合もありますが、セールアンドリースバックではその制限がありません。

そのまま入居し続けられる

自社ビルを通常の手順で売却すると、別の場所に移転しなくてなりません。しかし、セールアンドリースバックはそのまま入居し続けられるというのが大きなポイント。売却前も後も環境を変えずに業務を続けていけます。

資金に充てられる

新たに商品開発をしたり、新規プロジェクトを始めたりする時に、どうしても必要になってくるのが資金です。資金が不足していたら金融機関から借り入れをする方法がありますが、その返済についても考えながらお金を借りて、事業計画を立てなければなりません。セールアンドリースバックを活用して自社ビルを売却しても、手に入ったお金が必要資金に満たないこともありますが、フルで借りなくてもいいという点はメリットと言えるでしょう。また、借り入れ枠をあまり使わずに資金が調達できるので、借り入れ枠の温存が叶います。

返済に充てられる

企業の血液とも言えるキャッシュ。不足している場合は、借り入れで補填しながら企業活動を進めていくことも必要です。しかし、その返済額が大きくのしかかり、資金繰りが思うように進まなくなってしまうケースがあります。特に昨今の新型コロナウイルス感染症の感染拡大で業績が悪化している企業が多く、計画通りに返済が進まないという話も少なくありません。そういった状態の時に、セールアンドリースバックで自社ビルを売却して不動産という資産を現金化し、手に入ったお金を借り入れ金の返済に充てるということも可能です。セールアンドリースバックで得たお金の使用用途に制限はありませんから、返済に充てることも可能というわけです。

賃料が経費として計上できる

セールアンドリースバックは、売却後は賃料を支払ってそのまま入居し続けられるという仕組みです。賃料は会社の費用となるため、経費として計上できます。なお、不動産は築年数が経過すると、値下がりするのが一般的。不動産などの資産を売却する時に、購入価格よりも売却価格が低い場合は損失が生じますが、この損失のことを売却損といいます。売却損が生じた場合は、法人税が節約できます。

買い戻すことも可能

通常の売却で自社ビルを手放してしまった場合は、そのビルが売却されない限り買い戻すことは難しいと考えられます。しかし、セールアンドリースバックは買い戻すことが全く不可能というわけではありません。資金繰りが好転してもう一度所有したいとなったら、買い戻しに対応してもらえます。中には、売却時に買い戻しの際の金額を提示してくれるケースもあるので確認してみましょう。いくらで買い戻せるのかがあらかじめ分かっているということは、計画が立てやすいという点にもつながります。もし少しでも買い戻す予定がある場合は、契約時にその旨や条件を決めておく必要があるので、覚えておくようにしましょう。

周りに知られずに売却できる

資金調達が必要で自社ビルを売却し、移転するケースでは、規模を縮小したり、これまでより不便な立地を選んだりすることも多いようです。こういった場合、周りがマイナス面ばかりに目を向けて、事業に悪影響を与えてしまうことがあります。売却で資金調達できたことで、「財務状況が改善されて、さぁこれから!」という時に「自社ビルを売却するとはよほどのこと。経営が厳しいのでは? 倒産も近い?」 など、あらぬ噂を立てられ、それが足かせになってしまったということも少なくありません。セールアンドリースバックの場合は、売却後もそのまま入居し続けられるというのが大きなポイント。取引先などに知られずに売却できるので、余計な心配をすることなく、事業を継続できます。

セールアンドリースバック、売主側のデメリットとは

セールアンドリースバック、売主側のデメリットとは

資産の売却価格が通常の売却に比べて割安

セールアンドリースバックで不動産などの資産を売却するケースでは、通常の売却よりも1〜3割ほど割安になることが多くなっています。

所有権がなくなる

そのまま入居し続けることは可能ですが、所有権は買主に移ってしまいます。例えば代々受け継いでいる土地やビルの場合は、安易に決断することはおすすめしません。十分検討した上で、方向性を決めるようにしましょう。

賃料が割高

セールアンドリースバックの契約後は、毎月賃料を支払って入居することになります。相場よりも割高になる傾向がありますが、その理由としては賃料の設定基準が相場ではなく、買取価格に対する利回りが考慮されるからです。一時的な資金調達には有効である一方、賃料が割高という側面から見ると、支出面で負担を感じてしまうことがあるかもしれません。

セールアンドリースバックにかかる税金とその額

セールアンドリースバックにかかる税金とその額

法人税

法人税は「課税所得×税率」で算出します。課税所得は、益金※1から損金※2を引いて算出します。法人税は法人が資産売却時に得た利益が課税対象です。
※1法人税法上の用語。資本などの取引を除いた法人の資産増加につながる収益のこと。法人税の課税所得の基礎となる。※2法人税法上の用語。資本などの取引を除いた法人の資産減少につながる原価・費用・損失のこと。

法人住民税

法人の事業所がある地方自治体に納める税金のこと。法人税は国税ですが、法人住民税は地方税となります。

法人事業税

法人が事業に対して課税される税金のこと。法人住民税同様、法人事業税地方税に分類されます。

登録免許税

セールアンドリースバックをする際は、抵当権の抹消、所有権の移転のために登記情報を申請する必要があります。登録免許税はこの時に必要となる税金です。

かかるお金とかからなくなるお金

セールアンドリースバックを行うことによって、売却後は賃料が発生するようになります。企業の場合は、長期賃貸借契約が多く、賃料は原則固定と考えていいでしょう。また、賃貸借契約時には、敷金、礼金、保証料などを支払います。しかし、物件の所有者ではなくなったため、修繕費や固定資産税・都市計画税などの所有者にかかる経費や税金はかからなくなります。さらに、物件を管理維持するための修繕費や税金の支払いは不要です。それに伴って、物件を所有しているがために発生する事務処理がなくなります。その分他の業務に時間を割けるようになり、業務面でも改善できるポイントがあるでしょう。なお、固定資産税は、毎年1月1日時点での所有者に1年分の全額が課せられます。つまり、売却のタイミングによっては売却後に納税通知書が届くことがあります。しかしこれでは、1月1日時点に所有していると損をすることになってしまうので、一般的には売却年の固定資産税は1年分の金額を売主と買主が日割り計算し、精算するという方法がとられています。
物件の売却によって手元資金が増えることもあり、キャッシュフローの改善やコスト管理の簡素化などに有効な方法です。

セールアンドリースバックに向いている企業・向いていない企業

セールアンドリースバックに向いている企業・向いていない企業

資金調達ができ、そのまま入居し続けられるというのは大きなメリットではありますが、どんな企業にとっても向いている方法かとなると、そうとは言えません。それぞれの特徴を見ていきましょう。

向いている企業

すぐに資金調達をしたい、その必要性が高い企業。融資が受けられないというケースであっても、セールアンドリースバックを利用すれば、融資を受けずに資金調達が可能です。

向いていない企業

自社ビル以外の資産があって、それらを活用して資金調達ができるのであれば、セールアンドリースバックは向いていない可能性があります。それは、長期的に見た場合、賃料が割高という点がネックになってくる可能性があるからです。

セールアンドリースバックを利用する際、気にしておきたいこと

セールアンドリースバックを利用する際、気にしておきたいこと

セールアンドリースバックを利用する時、下記のポイントをおさえて進めるといいでしょう。

複数の会社に相談し、比較検討する

会社によって、提示する買取価格や賃料は異なります。大きなお金が動くことになるため、1社だけでは検討することが難しい面もあります。複数の会社に相談し、納得のいく会社に依頼するようにしましょう。

契約内容の確認をする

買取価格や賃料だけでなく、契約内容の確認をしっかりするようにしましょう。セールアンドリースバックは、通常の売却のように買主に引き渡したら、その物件と完全に縁が切れるというわけではありません。経営が安定したら、買い戻しをする可能性があるのであれば、その際の取り決めが記載されているか、賃料の引き上げはどのような時に行われるのかが明記されているか、更新についての説明があるかなどは必ず確認を。契約内容に納得した上で契約を締結するようにしてください。また、少しでも疑問がある場合はそのままにせず、説明を受けるようにしましょう。

専門へ相談を

セールアンドリースバックをすることは、企業にとって大きな決断とも言えます。資金をすぐに調達したい状況でも、セールアンドリースバックをすることが果たしてベストな選択なのかなど、何か引っかかることがある場合は、税理士などの専門家に相談を。セールアンドリースバックをした場合としない場合とでシミュレーションをしてもらうなどして、しっかりと検討するようにしましょう。

買主側のメリットも

買主側のメリットも

投資家にとって、オフィスは魅力ある投資対象です。高い賃料収入が見込めるほか、一度入居すると比較的長期に渡って借り続けてくれるというメリットがあります。しかし、働き方改革や新型コロナウイルス感染症の感染拡大によってリモートワークを導入する企業が増え、オフィスの縮小や移転が相次いでいるという状況に。以前のようなメリット全てを享受できる時代ではなくなってきたため、ビルを購入したとしても空室対策に時間を取られてしまう可能性も高くなります。
そのような中、セールアンドリースバックで取得したビルであれば、売却後に入居し続けてもらえるという点から、一定期間であっても空室リスクに悩まされることはありません。

最近、セールアンドリースバックに注目が集まる理由

最近、セールアンドリースバックに注目が集まる理由

最近注目が集まっているセールアンドリースバックではありますが、これは以前からある資金調達方法であり、特に新しいものではありません。景気が良い時代にはあまり注目されない方法という点から、リーマンショック以降は利用頻度がそう多くはなかった資金調達方法です。しかし、2020年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大によって再び注目を浴びることになります。経済活動が鈍化したことから、資金繰りが立ち行かなる企業が増加。経済が不安定で、自社の経営が悪化している環境下では、融資が思うように受けられなくなるのは仕方のないことではありますが、それでも企業は存続し続けるために、資金調達をしなければなりません。そこで、自己資産を見直し、不動産売却を選択する企業が出てきたというわけです。しかし、売却して移転となると、様々な面で煩雑さがあるのは否めません。そこで、自社ビルを売却して資金を調達し、そのまま入居し続けられるというセールアンドリースバックという方法が注目されているという状況です。ニュースにもなりましたが、近年では2020年にエイベックス、2021年には電通が本社ビルを売却しました。いずれもそのまま入居し続けており、セールアンドリースバックを活用した事例です。

じっくり検討することが大切

じっくり検討することが大切

多くのメリットがあるセールアンドリースバックではありますが、目指す方向や企業の保有している資産によっては、他の方法を選択したほうがいいケースもあります。じっくり検討し、決断することをおすすめします。

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