マスターリースの基礎知識

空室の不安を解消する方法として、「サブリース」という言葉をよく聞くという方も多いのではないでしょうか。近年では、賃貸住宅の話ではありますが、2018年に投資用シェアハウスをサブリースする会社の倒産、サブリースをメイン事業とするアパートメーカー大手の施工不良などが世間を騒がせたのは記憶に新しいところです。

さらにサブリースと同様に「マスターリース」という言葉を見かけることがあります。同じような意味で扱われていることが多いこの2つの言葉ですが、厳密にいうとそれぞれの意味は異なります。ここでは、それぞれの意味や違いについて見ていきながら、サブリースという言葉で世間を騒がせた事件にも触れてきたいと思います。

マスターリースとは

マスターリースとは

マスターリースとは、不動産会社がビルなどの商業用不動産を第三者に賃貸するために、物件を所有しているオーナーから物件を一括で借りることです。つまりマスターリース契約は、オーナーと不動産会社との間で締結されます。契約期間は様々ですが、最近の傾向では10~20年の定期借家契約が比較的多いようです。

契約において賃料の支払い方法は、大きく分けて下記の2つとなります。

●空室保証型
空室の数に関わらず、一定の賃料が入るタイプ。長期的な返済計画や経営計画が立てやすいという特徴がある。安定した家賃収入が得られる一方で、満室が続く物件などでは稼働率に比べて手取りが少なくなってしまうという懸念点も。

●実績連動型
家賃収入に応じて賃料が支払われるタイプ。入居率によって収入が左右される。立地がよく、退去してもすぐに次の入居が決まるような人気のある物件では、空室保証型に比べるとメリットが大きい。空室率の高い物件には不向き。

マスターリース契約のメリット・デメリット

マスターリース契約のメリット・デメリット

ビルなどの商業用不動産のオーナーは不動産会社とマスターリース契約を交わすと、賃貸物件の管理業務を不動産会社に任せることができます。メリットとしては、空室になった場合、オーナー自らがテナントを探す必要がなく、マスターリース契約を結んだ不動産会社が対応してくれることが挙げられます。空室期間が長引くと、その分気を揉むことになりますので、不動産の専門家が対応してくれることで安心感も違います。また、テナントが賃料を滞納した場合、オーナーが催促して回収するというのはなかなか難しいもの。こういった対応もやってもらえるので、未回収によるストレスを大きく感じずに賃貸経営を続けていくことができます。戸数の多いビルを所有しているオーナーからすれば、煩雑な管理業務から解放されるので、様々な面でゆとりが生まれるでしょう。

一方デメリットとしては、空室保証型を選択したとしても、賃料は完全に保証されない可能性があるということが挙げられます。空室率が高い状態が続くと、不動産会社としても当初の予定通りに支払うことが困難になるケースがあります。そういった場合に、不動産会社から、賃料の見直しを提示されてしまうことがあるというわけです。マスターリース契約の空室保証型では毎月の支払額は家賃を基準に算出されます。よって、家賃が下がればその分手取りが減ってしまうという構図です。また、不動産会社の手に負えない場合は、契約を解除されてしまうこともあります。

不動産会社が契約を解除したいと考えてしまうのは、その物件に魅力を感じないから。これ以上契約を続けていても、不動産会社にとってメリットがなければ、そういった告知がなされることも想定しておく必要があります。

このような側面からも、利用する際にはできるだけ家賃が下がりにくいエリアにある物件や条件が整っている物件を選ぶほか、物件の修繕や清掃など日々のメンテナンスには注力し、価値をできるだけキープできるような努力をするようにしましょう。特にテナントビルの場合は、エントランスなどの共有部分がどれだけ綺麗に保たれているかも入居希望者であるテナントのチェックポイントとなります。テナント側もそれが会社やお店の顔ともなりえますから、そういったテナント側の心理にも配慮しながら賃貸経営を続ける必要があります。どのような対策をしておくべきなのかは、マスターリース契約を結んだ不動産会社とも相談しながら進めていくようにしましょう。

また、不動産会社が一括借り上げをして賃貸経営に加わることになりますが、ビルの所有者であることは忘れないようにすることが重要です。どんな契約形態であっても、不動産会社に任せきりにしないこと。この部分の意識が低いと、空室率が下がっていることや空室期間が以前より長引いていることなどに気が付かず、ある時突然家賃の値下げや契約の解除を告げられてしまうことがあります。自身でうまくいっていないことを自覚していたら、その前に手を打てるというものです。不動産会社はよき相談相手、パートナーという位置付けで考えておくようにするといいかもしれません。

融資を通す代わりに、必要のない商品を金融機関から販売されてしまったという報告もあります。カードローンを組むこと、定期預金口座の開設、不必要な保険への加入などを打診されても、それを融資の条件とするのはおかしい話です。このような話が出たら無理に受けることはないという点は覚えておきましょう。また、融資の審査を不動産会社に任せっぱなしにしていると、勝手に融資を通す条件をのんでしまわれることも過去になかったわけではありません。悪い不動産会社ばかりではありませんが、とにかく自分が所有者であること、お金を出資するのは自分であることは、どんなシーンでも忘れないようにするようにしましょう。

管理業務については、不動産会社によって契約内容が異なるので、契約時にはしっかり確認することが重要です。契約後に、「こんなはずではなかった」とならないように、契約前には不明点をクリアにしておく必要があります。

サブリースとは

サブリースとは

マスターリースよりも見聞きする機会の多いサブリースという言葉。マスターリースが、オーナーと不動産会社間で結ぶ一括借り上げに関する契約なのに対し、サブリースとは、オーナーから物件を借り上げた不動産会社が、その物件を第三者に転貸することを意味しています。つまり、契約するのは不動産会社と第三者ということになります。このように、マスターリースとサブリースは本来意味が異なるものですが、一般的にはこれら一連の契約がサブリースと言われることが多くなっています。

一括借り上げによって転貸するという管理方式はサブリース方式と言われています。また、こういった業務を行っている不動産会社のことをサブリース業者と呼ぶことがあります。

サブリース物件に入居する際に注意したいこと

サブリース物件に入居する際に注意したいこと

サブリース物件は、貸主が物件を所有しているオーナーではなく、不動産会社(サブリース業者)となります。貸主と所有者が異なるという特異性から、サブリース物件独自の注意するポイントがあるので、新たに入居する場合、まずはサブリース物件かどうかを確認しましょう。なお、国土交通省が用意している標準契約書では、貸主と建物の所有者が異なる場合には、両者を記載することとしています。つまり、契約書の貸主と所有者の記載名が異なる場合は、入居物件がサブリース物件ということになります。

また、契約書に地位の承継に関する規定があるかどうかを確認します。この規定は、「この契約が終了したときは、貸主の地位を、建物の所有者が引き継ぐ」という規定のことです。この規定があれば、オーナーと不動産会社の契約が終了もしくは解消となっても、物件の所有者から退去を求められる心配はありません。

また、貸主である不動産会社(サブリース業者)は、入居者に「維持保全の内容」及び「サブリース業者の連絡先」を通知することとなっています。その記載や通知がない場合は、不動産会社(サブリース業者)に確認するようにしましょう。

投資用シェアハウスをサブリースする会社が倒産したという、世間を揺るがした事件

投資用シェアハウスをサブリースする会社が倒産したという、世間を揺るがした事件

賃貸住宅の話にはなりますが、ここでサブリースによるトラブル事例を紹介します。
投資用シェアハウスをサブリースするS社が行っていたのは、家賃保証型サブリースと呼ばれているもの。空室の数に関わらず、オーナーには一定の賃料が入るタイプです。空室の不安が解消できる点がメリットとしてうたわれており、多くの投資家が契約を結んでいました。しかし、2018年1月には、経営危機を理由に保証していた賃料の支払いを停止し、S社は破産。保証されている毎月の家賃収入でローンの返済計画を立てていたオーナーは返済が立ち行かなくなり、自己破産する人も出てしまいました。中には数億円の負債を抱えてしまったという人もいます。

S社が提供していた物件の実際の入居率は4割程度だったとのことで、結果的にはサブリースの仕組みが成立していなかったということになります。また、融資を受けられるようにオーナーの預金通帳を改ざんしたり、施工会社が販売会社へのキックバックをしたりなど、後になって不正行為が次々と明るみになった事件でした。

この事件でサブリースの問題点が一気に露呈したわけですが、これに限らず「30年一括借り上げといっていたのに、空室率の高さを理由に家賃を下げられてしまい、ローンの返済計画が狂ってしまった。支払えないので手放すしかない」というような相談が増えているという現状があります。

ML契約=マスターリース契約

ML契約=マスターリース契約

ML契約というワードを目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、これは、マスターリース契約をローマ字の頭文字で表したものです。ちなみに、マスターリース契約の貸主はマスターレッサー、借主はマスターレッシーと呼ばれています。

リスクを把握することも忘れずに

リスクを把握することも忘れずに

先に述べたように、マスターリース契約による安心感はありますが、持ち合わせているリスクなどはしっかり認識して、メリットを上手に享受できるようにするといいでしょう。

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よくある質問

マスターリースとは何ですか?
「マスターリース」とは、不動産会社が第三者へ賃貸するために、オーナーから物件を一括で借りることです。
オーナーと不動産会社間で結ぶ一括借り上げに関する契約を指します。
サブリースとは何ですか?
「サブリース」とは、オーナーから物件を借り上げた不動産会社が、その物件を第三者に転貸することです。
契約するのは不動産会社と第三者です。
ML契約は何の略ですか?
ML契約はマスターリース契約の略です。
マスター契約において賃料の支払い方法を教えてください
賃料の支払い方法は、大きく分けて空室保証型と実績連動型の2つです。詳細はマスターリースとはを参考にしてください。