本社ビル・自社ビル売却で知っておきたいこと

丸の内や新橋、新宿、渋谷など、都心の一等地に本社ビルや自社ビルを所有することは、その企業の規模や信用度を示すひとつの目安となります。企業名を聞けば誰もが知っているところが多く、事業規模もそれなりの大きさです。しかし最近は、大手企業が一等地にある本社ビルや自社ビルを売却するケースが目立つようになりました。ほかのエリアでも、本社ビルや自社ビルを売却する動きが見えてきています。

ここでは、売却の流れや理由、事例、そこから期待できることなどについて見ていこうと思います。

本社ビルや自社ビル、売却までの流れ

本社ビルや自社ビル、売却までの流れ

売却することを決めたら、不動産会社を選定します。ただし、買い手の絶対数が限られているというのもビル売却の特徴で、それなりの専門性が必要です。決める際には、これまでの実績や取り扱い棟数なども加味するようにしましょう。ほかにも、単に買い手を探すだけでなく、土壌汚染や地盤の調査、自然災害リスク、懸念点などが把握できるサービスなどを提供している不動産会社だと、なお安心です。士業とのネットワークが充実していることも、気にしてみるといいかもしれません。

買い手を探してくれる不動産会社が決まったら、まずは媒介契約を締結します。この媒介契約では、専任専属媒介契約、専任媒介契約、一般媒介契約という3種類のいずれかを選ぶことになります。それぞれの特徴を把握して、適した契約を締結するようにしましょう。

【媒介契約、それぞれの特徴】

●専任専属媒介契約:他の不動産会社との媒介契約は不可。
自ら買い手を見みつけることはできない。契約期間は3カ月以内で、不動産会社には、週1回以上の売却活動報告、レインズへの登録義務がある。

●専任媒介契約:他の不動産会社との媒介契約は不可だが、自ら買い手を見つけることができる。
契約期間は3カ月以内で、不動産会社が、2週に1回以上の売却活動報告、レインズへの登録義務がある。

●一般媒介契約:他の不動産会社との媒介契約は可。自らで買い手を見つけることができる。
契約期間は、行政指導では3カ月以内。不動産会社は売却活動報告やレインズへの登録義務はない。他の2つの媒介契約に比べてしばりが少ないため、積極的に販売活動をしてもらえない可能性がある。

媒介契約を締結したら、査定をしてもらい売出価格を決定します。その後、不動産ポータルサイトや紙の広告などで販売活動を続け、条件がマッチングする買い手が見つかったら、不動産売買契約を締結。最後は、残金の決済・物件の引き渡しとなります。

本社ビルや自社ビルの売却が増えている主な理由

本社ビルや自社ビルの売却が増えている主な理由

これまでは、事業の拡大や縮小、業績によって売却を検討するというケースが多かったようですが、最近の傾向としては、新型コロナウイルス感染症の感染拡大やビルの築年数に起因しているケースが散見されます。ここでは、考えられる理由をいくつか紹介しましょう。

新型コロナウイルス感染症の感染拡大による業績悪化

私たちの生活様式が大きく変わった、新型コロナウイルス感染症の感染拡大。日本で初の感染者が確認されたのは2020年1月16日のことでした。2020年4月7日に緊急事態宣言が発出されると不要不急の外出は控えることとなり、経済活動にも大きな影響が出ました。
このコロナ禍によって業績が大幅にダウンした企業が枯渇したキャッシュを増やすために、本社ビルや自社ビルの売却を選択するケースが見られます。売却後は、そのままテナントとして入居するケース、他へ移転するケースなど様々です。

テレワークへのシフト

新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止の観点から、テレワークを導入する企業が増加。コロナ禍前よりも出社率が大きく減ることとなり、オフィスはほとんど使っていないという企業も。従業員が多い企業であればあるほどその影響は顕著で、「事務所利用者が少なければわざわざ大きなビルを構える必要がない」という理由から、売却に至ったというケースがあります。
また、コロナ禍を機にテレワークを導入したことにより、会社以外の場所でも仕事ができる環境が整備されたという企業が多数。中にはコロナ禍が収束してもテレワークを主とした働き方を継続するという企業も見られるため、今後、本社ビルや自社ビル売却に踏み切るところも出てきそうです。

旧耐震基準で建てられたビルからの移転

旧耐震基準とは、震度5強程度で建物が倒壊せず、破損したとしても補修すれば生活が続けられる構造基準のこと。この基準は1981年5月31日までの建築確認で適用されていたものです。1981年6月1日からは新耐震基準が適用され、震度6強、7程度の地震でも建物が倒壊しないという構造基準となっています。
いくら便利な立地にある本社ビルであっても、社員の安心や安全が確保できない構造では、企業としてリスクを抱えてしまうことになってしまいます。2019年に国土交通省が発表した資料によると、東京23区における旧耐震基準によって建てられたオフィスビルの数は、大・中小規模合わせて2,358棟となっています。この棟数全てが本社ビルというわけではありませんが、旧耐震基準によって建てられた本社ビルを売却し、新しいビルへ移転するケースが見られます。

本社ビルを売却した大企業の事例

本社ビルを売却した大企業の事例

新橋駅の汐留口側に建つ地上48階、地下5階の「電通本社ビル」。電通の本社機能があるほか、商業施設や劇場、博物館が入居しており、汐留地区のランド―マーク的な存在として2002年に竣工しました。その後2021年6月には売却を検討していると発表。9月には売買契約が成立し、9月30日には正式に売却を発表しました。しかし、売却後に撤退するのではなく、オフィス部分に関しては賃貸借契約を結び、引き続き本社として使っています。

主軸である広告事業が低迷し、赤字に転じたことが本社ビル売却に至った最大の理由。売却額は3,000億円規模、譲渡益は890億円とも言われています。テナントとして入居することで、減価償却費や修繕費、維持費などを削減。管理に係る手間や人員が削減できることもメリットと捉えた上での決断だったようです。

また、エイベックスは南青山にある2017年築の本社を2020年12月に売却。売却額は約730億円とみられています。コロナ禍によってライブやイベントが開催できなくなり、業績が一気に悪化したことが大きな要因。売却後は電通同様、テナントとして入居しています。

電通、エイベックスとも退去はせずに、入居を続けるというスタイルをとっていますが、このスキームは「セールアンドリースバック」と言われています。「セールアンドリースバック」は売却して借り戻すという意味で、基本的には、周囲に売却したことを知られずに現金を手に入れ、環境を変えずに会社の再建をはかることが可能となる方法となります。少し前にはなりますが、2000年にNECが港区芝にあるNEC本社ビルを売却。このケースも引き続き本社として賃借しているという「セールアンドリースバック」の事例となります。

大手企業では、本社ビルは所有するものというのが常とされてきましたが、様々な環境の変化によってテナントとして入居するという選択をする企業も増えてきました。ただ、いまだに売却にはマイナスのイメージがついてまわることは確かです。電通やエイベックスなどのように本社ビルの売却が報道されると、業績不振の部分だけが注目されてしまう可能性がある点は認識しておくようにしましょう。

本社ビルなどの社屋売却によって期待できること

本社ビルなどの社屋売却によって期待できること

不動産という資産を流動性の高い現金に組み換えることで、様々な面での活用が可能となります。多額の借入金がある場合は、その返済に充てるというのも活用例のひとつです。借入金の残高が減ることで、自己資本比率が高まり経営にゆとりが生まれます。

東京にあるビルを売却した場合

東京にあるビルを売却した場合

大企業の事例として挙げた電通やエイベックスのように、売却後はテナントとして入居するというケースの場合は、入居者が決まっているわけですから比較的買い手が付きやすい売却案件だと考えられます。いずれも大手企業という信頼性もあるため、家賃回収についても大きな心配がない点もポイントです。

一方、東京都内にはあっても、本社ビルを売却した後に移転を考えているケースはどうでしょうか。まず築浅で好立地の場合は、より良い条件の物件を探している企業の入居が期待できます。テレワークでオフィス需要は以前より減少しているかもしれませんが、緊急事態措置やまん延防止等重点措置が明ければ通常勤務に戻している企業が一定数あるのも事実。業務上、テレワークができない企業などの中には、好立地への移転のチャンスと積極的に物件探しをしているところもあるようです。

旧耐震基準によって建てられたビルや老朽化の目立つビルは、そのまま利用されるというよりは、解体したり別の建物を建てたりして利用されるようになる可能性が高いでしょう。最近は、都心の一等地にあるオフィスビル街の中に分譲の高層マンションが建つことも多くなりました。これまで居住エリアとしてはなかなか考えられなった都心の一等地ではありますが、職住近接を求める人や利便性重視の人にとっては、理想的な物件。古いビルは売却まで苦労するかもしれないとお考えの事業主様もいらっしゃるかもしれませんが、ほかの用地に転用するなどあらゆるケースを提案してくれる不動産会社を選ぶことで、懸念点を回避できることもあるでしょう。

経験値の高い不動産会社に相談を

経験値の高い不動産会社に相談を

大きなお金が動くことになる本社ビルの売却。売却する理由はそれぞれではありますが、いずれも今後の事業展開にとってプラスに転じる選択となる必要があります。売却してそのままテナントとして残るのか、新しい場所へ移転するのかなど、企業によってとるべき方法は様々。冒頭でもお伝えしましたが、まずは経験値の高い不動産会社に相談するなどし、最適解へ導いてもらうようにしましょう。

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よくある質問

自社ビルを売りたいときはどうしたらいいですか?
まずは、お客様のご希望をビル売却の相談よりお気軽にご相談ください。
売却時期を急がれる場合、ご事情によっては不動産業者に売買する方法もございます。
売却するために必要な諸経費にはどのようなものがありますか?
主なところでは、仲介手数料や抵当権の抹消費用、契約書に貼付するの印紙税などが必要となります。
また、売却によって譲渡益が発生するケースでは、所得税等がかかる場合がございます。
すぐに売却するつもりはないですが、査定依頼は可能でしょうか?
賃貸オフィスビルカタログでは、将来を考えたご相談なども承っております。
具体的な売却時期は決まっていない場合でも、ビル売却の相談よりお気軽にご相談ください。
雨漏りなどで修繕が必要なビルでも買取に出せる?
リフォーム・リノベーション前提でビルを買い取るケースが多いので、依頼時の状態はそこまで気にする必要がありません。
ただ、状態によっては買取が難しいケースもあるため、ビル売却の相談よりお気軽にご相談ください。