工場売却の方法や注意点

工場の老朽化、事業の転換、工場移転など、工場売却の理由は様々だと思います。工場は、居住用物件ほど需要が高くはなく、買い手を探して売却まで進めるためには、抑えておきたいポイントがあります。ここでは、工場売却の方法や注意点などについて見ていきましょう。

売却方法~工場をそのままの状態で売却する~

売却方法~工場をそのままの状態で売却する~

工場は敷地が広いだけではなく、建物の大きさもそれなりにあります。売却するには、建物を解体して更地にするという方法も考えられますが、そのままの状態で売却するほうが解体費などのコストは抑えられます。

工場とは、機械などを使って物品の製造・加工などをする場所。製造・加工するものによって備わっている機械や設備が大きく異なるため、そのまま売却するとなると、まずは買い手として同業者を探すことがポイントになってくるでしょう。ただし、売却したいタイミングで、同業者が工場を探しているケースというのはなかなかないもの。設備の入れ替えや改修などをして使ってくれる企業を探す、そのエリアの土地を探していて、解体費用を負担できるような企業を探して購入してもらうというのも考えられます。広い用地を探しているのは、マンションや分譲住宅、大型商業施設、リゾート施設のデベロッパー、大学などの教育施設などです。ちなみに、その工場が都市計画で「工業専用地域」と定められている場合は、住宅の建設は不可となるので注意が必要です。

引き続き工場として利用してもらうには、工業団地などの工場が集まるエリアなどに立地していると比較的有利かもしれません。工場を操業する際には、製造や加工するものによって騒音・臭い・振動などが発生するケースがあります。周囲に住宅があると、住民からのクレームなどが発生する可能性もあるからです。一方、工場が集まるエリアではその点をあまり気にすることなく操業することができます。また、工場地帯は、規制自体も緩いというのが特徴です。

売却までの流れとして、まずは相場をチェックすることから始めましょう。インターネットの物件情報や国土交通省の「土地総合情報システム」などで同じような条件の物件を探すというのが簡単な方法です。もし、売却の理由が資金調達だった場合は、希望にかなった価格で売却できるのかという点を見極める必要があります。そのまま所有しているほうが有利になる可能性もあるので、しっかり判断してください。

相場を把握したら、次は不動産会社で査定をしてもらいます。査定は1社ではなく、数社にお願いして比較検討するようにしましょう。査定結果についてどう判断するかですが、高い査定価格を出してきたところが必ずしもベストというわけではありません。相場と乖離しすぎていると買い手が付かず、結果的には価格を下げながら売却期間が長期化してしまう可能性があるからです。価格が高いのは悪いわけではありませんが、各社にはどうしてこの査定価格になったのかをヒアリングし、最も納得でき、現実的な説明があった不動産会社を選ぶようにするといいでしょう。

不動産会社が決まったら媒介契約を締結し、販売活動に入ります。インターネットやチラシなどを使って広く購入希望企業を募り、反響を待ちます。そして買い手が決まったら、売買契約を締結し引渡しとなります。工場の引渡しは搬出などにも時間がかかりますので計画的に行い、期限までに引き渡せるようにしましょう。

売却方法~更地にして売却する~

売却方法~更地にして売却する~

工場の建物が残っていると、使用用途が限られたり買い手が解体費用を負担しなくてはならなかったりと、なかなか売却しにくいというのが現実です。

建物を解体して更地にすれば、広い土地を探しているデベロッパーなども買い手の候補となってきます。しかし、前述もしましたが、工場が都市計画で「工業専用地域」に立地している場合は住宅が建てらせません。工場は都市計画ではどこに分類されているのかという点は確認しておく必要があります。

売却までの流れは、工場をそのままの状態で売却する時と変わりませんが、プラスして建物を指定日までに解体する計画を立てておかなければなりません。買い手の意向と調整しながら、不動産会社と一緒に進めていくといいでしょう。

売却方法~セールアンドリースバックを利用~

売却方法~セールアンドリースバックを利用~

セールアンドリースバックとは、所有している不動産を売却したのち、借り手として利用する方法のことです。所有者ではなくなりますが、賃貸借契約を結び、毎月賃料を支払って利用し続けることが可能。売却してお金を得ながら、変わらずに使い続けられるとあって、資金調達の方法として注目されている売却手段のひとつです。移転するとなるとそれなりにコストや手間がかかりますし、何より工場の場合は、住宅ほど流通している物件が少ないというのが移転先探しの難点でもあります。

セールアンドリースバックのメリットは、使い続けられるという点以外では、資金調達ができるという点が大きいでしょう。企業にとってすぐに使える運転資金を確保するということは、企業活動を安定させながら動かしていくにはとても重要なことです。帳簿上はうまくいっていても、現実的に支払いが滞ってしまっては、信用も失いますし、業務を進めながら金策に走るということにもなり兼ねません。資金調達には融資を受けるという方法もありますが、この場合は思うように受けられない可能性もあります。また、月々の返済も伴ってくるため、その負担を加味しながら運用する必要も出てきます。

他のメリットとしては、物件の所有者ではなくなるため、修繕費や固定資産税・都市計画税などの所有者にかかる経費や税金がかからなくなるなど固定費の負担が減るということが挙げられます。工場は敷地がそれなりにありますから、固定資産税はかなりの額となりますし、修繕費についても自社で備えておくなどの対策が必要になってきます。その分の負担が減るのは大きいでしょう。

一方、デメリットとしては毎月賃料が発生することや、何か変更を加える場合は工場の所有者に確認する必要があるということなどが挙げられます。変更内容によっては受理されないことがある可能性もあり、生産性を上げたくても思うように進められないことがあるかもしれません。また、賃貸借契約自体が更新できないことも否めません。このようにメリットとデメリットがありますが、それぞれを把握した上で判断するようにしましょう。

そして重要なのは、契約内容の確認です。これまでと同じ工場で稼働できるとは言っても、所有者が変わっていることには注力しておかなければなりません。所有していたころには自由に手を入れられたことが、契約上はNG行為だったり、罰則の対象になっていたりすることがあります。こういった点からも、価格や賃料だけでなく、契約内容の確認をしっかりすることは大切になってくるでしょう。また、セールアンドリースバックは、契約内容によっては買い戻しができます。その点を契約書に入れるのかどうか、また、入れる場合の条件はどのようなものか、賃料、更新についての確認を忘れずにし、借主になってもトラブルが発生しないようにしておきましょう。

さらに、セールアンドリースバックは、資金調達がしたい企業ならどんなところにも向いている方法というわけではありません。向いているのは、工場以外に大きな資産がなく、すぐに資金調達をしたいというような企業。また、希望額ほど融資が受けられない企業などには向いている方法で、大きな資産である不動産を売却すれば、自由に伝える資金が手元に入るというのも大きいでしょう。一方、工場以外の資産を持ち、それらの活用ができるのであれば無理に工場を売却する必要はありません。工場は特殊性も高いので、新しい場所に移転するにも一朝一夕とはいかないのが現実だからです。

買い手が付きやすい工場の条件とは

買い手が付きやすい工場の条件とは

まず、建物の造りが複雑ではないという点が挙げられます。あまりにも偏りすぎていると、買い手側が「かなり手を加えたり変更したりしないと使えなさそうだな」となってしまい、なかなか決断に至らないケースがあります。購入後の様子が想像しにくいという点で拒否されてしまうこともあるようです。複雑というのと似ているかもしれませんが、あまりに細かく区切られているのも業種によっては使いにくさを感じてしまうことも。できるだけ間仕切りがないスペースであれば自由度が上がり、買い手も検討しやすいと言えるでしょう。

敷地に目を向けると、工場地帯にあることや、主要道路やインターチェンジに近いなど、物流面でのメリットが求められるケースが多いでしょう。十分な駐車スペースも必要ですし、製造物にも寄りますが、大きなトラックが出入りできるように道路幅の広さを条件にしてくる買い手もいます。

工場売却時に必要な書類とは

工場売却時に必要な書類とは

工場売却時には、必要な書類があります。物件や買い手によっては他の書類を求められることがあるので、下記は一般的なものとして認識しておいてください。

●登記済権利証もしくは登記識別情報通知書
登記済権利証と登記識別情報通知書はいずれも所有者の確認ができるものとして必要で、内容、発行目的は同じです。違うのはその発行タイミング。2005年に登記済権利書の発行が廃止となり、12桁のパスワードが記載されている登記識別情報通知書へと移行し、オンライン上で管理されるようになりました。つまり、2005年を境に登記済権利証か登記識別情報通知書かが分かれているというわけです。ちなみに、2005年の時点で過去のものがオンライン上で管理されるようになったわけではないので、登記済権利証を登記識別情報通知書に変更することはできません。

●登記事項証明書(登記簿謄本)
登記事項証明書(登記簿謄本)には、所有者の氏名、住所、建物の構造・規模などが記載されています。法務局の窓口やオンライン上で申し込んで郵送してもらうことができます。誰が所有しているどんな建物か、というのを把握するために必要です。

●固定資産税の納税通知書
納税通知書は納付状況を確認するために必要ですが、原則再発行はできない点は認識しておきましょう。また、固定資産税は1月1日時点の所有者に課せられる税金ですが、年度途中で売却した場合は、先に1月1日時点での所有者が一旦全額の納付することになります。売却後に、買い手と日割り精算することになるので、その際にも必要な書類となります。

●公図
公図とは、土地の大まかな位置や形状が分かる図面のことです。法務局の窓口、役所の税務課で取得できます。オンライン上で申し込んで郵送してもらうことも可能です。

売却時に気を付けたいポイント~土壌調査~

売却時に気を付けたいポイント~土壌調査~

工場には様々な種類がありますが、薬剤などを使用して稼働していた場合は、土壌調査をしないと売却できないことがあります。なお、調査により、土壌が基準値以上に汚染されている場合はそのままでは売却できません。土壌を浄化したり改良したりし、基準値以下に収めてから売却できるというわけです。

薬剤を使っていなかった工場でも、万が一を考えて土壌調査を行ったほうがよいかもしれません。売却まではスムーズでも、売却後に問題が発生して、最悪の場合は損害賠償を請求されてしまうことがあります。手間はかかりますが、後から面倒なことにならないように調査はしっかりと行い、契約時に明示しておくといいでしょう。

売却時に気を付けたいポイント~建築基準法に合致しているか~

売却時に気を付けたいポイント~建築基準法に合致しているか~

新築時に完了検査を受けて、建築基準法令に適合しているという証明ともなる検査済証の交付を受けることが必要ですが、中には受けていない工場があります。

買い手としては、高額を支払って購入することになるため、少しでも安心して工場を手に入れたいものです。検査済証がないと売却は難しい可能性がありますし、調査をしたとしてもその結果が現在の建築基準に満たない場合は、売却はしにくくなります。

建築基準法に合致しているかどうかは、建物付きで売却したケースでの注意点ですが、将来売却する可能性がある場合は、日ごろから定期的に調査やメンテナンスを実施し、いざという時に慌てないようにしておくといいでしょう。

会社ごと売却するM&Aという方法も

会社ごと売却するM&Aという方法も

単純に不動産として売却するだけではなく、「不動産M&A」という方法があります。
一般的なM&Aは、会社の事業を取得することが目的ですが、不動産M&Aは不動産の獲得を目的に行われるものです。
不動産の獲得と言っても、通常の不動産取引のように単純に売り買いするのではなく、株式の売買に伴って不動産の移動が行われます。例えば売主側が不動産のみを所有する会社を設立し、その会社の株式を譲渡するという方法で不動産の移動をする場合があります。

この方法をとることのメリットとしては、節税効果が挙げられます。通常の不動産売却では売却益に対して法人税や所得税などがかかりますが、不動産M&Aは目的が不動産売却ではないため、この税金がかかりません。あくまでも譲渡対象が株式なので、株式の譲渡益に対して所得税が課せられます。譲渡された側も株式を受け取るということになるため、不動産を取得した際にかかってくる、不動産取得税、登録免許税、印紙税などがかかりません。

実績の多い不動産会社に依頼すると安心

実績の多い不動産会社に依頼すると安心

工場の売却は、住宅などに比べると、需要、供給ともに高いものではありません。気を付けるポイントも多くあるほか、動くお金も大きいことから、適した売却方法はどういったものなのかというのは十分検討する必要があります。工場の売却を検討している場合は、マッチングに長け、実績も多い不動産会社に任せると安心でしょう。

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