ポストコロナ時代に求められるオフィスとは|田澤由利氏インタビュー(株式会社テレワークマネジメント)

田澤由利氏インタビュー(株式会社テレワークマネジメント)
「ポストコロナ時代のオフィスは、社員の数だけ机を並べる場所から、社員がベストな状態で働ける場所に変わっていく」

こう話すのはテレワークマネジメント代表取締役の田澤由利氏。田澤氏は在宅での就労を支援するワイズスタッフを1998年に起業。さらに、日本の働き方を変えるために企業を変えていこうと、2008年に日本で初めてテレワークの導入コンサルティングを行うテレワークマネジメントを設立した。
テレワークマネジメントは東京都千代田区と北海道北見市、奈良県生駒市に拠点を置き、バーチャルオフィスを活用して完全在宅勤務を実現している。田澤氏はリアルのオフィスがいらないわけではなく、ポストコロナの時代はリアルとバーチャルの両方を活用し、どこでも働けるハイブリッド型のオフィスを目指すべきだと提言する。未来のオフィスの姿について、田澤氏にオンライン取材で聞いた。

株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利(たざわ・ゆり)

株式会社テレワークマネジメント代表取締役 田澤由利(たざわ・ゆり)様
奈良県出身、北海道在住、1998年(株)ワイズスタッフ、2008年(株)テレワークマネジメント設立。テレワーク導入支援や普及事業等を行う。総務省地域経済情報化アドバイザー。ポストコロナに向けた政策検討会議等、国の会議にも多数参画している。「総務省平成27年度情報化促進貢献個人等表彰」「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰個人賞」「第66回前島密賞」受賞。著書『在宅勤務が会社を救う』(東洋経済新報社)。

1. 全員在宅勤務でも一緒に働けるバーチャルオフィス

「私の会社にご案内します」

そう言って田澤氏がパソコンの画面を通して見せてくれたのは、自身が経営するテレワークマネジメントのバーチャルオフィスだ。社長室、応接室、フリーアドレスの大部屋など、実際のオフィスと同じように部屋割りがされていて、スタッフがどの部屋で仕事をしているのかが一見して分かる。

バーチャルオフィス1
バーチャルオフィス2

「社長室や応接室などの個室でマイクをオンにして会話をすれば、他の部屋にいる人にはその音声が聞こえません。フリーアドレスのフロアにいるときは自由に声をかけてもいいルールにしていますので、他の人に何か確認したいことや相談事がある時は、マイクとカメラをオンにして、気軽に声をかけて会話を始められます。

当社の社員は全員在宅勤務です。でもバーチャルオフィスを活用することで、同じ部屋にいて、一緒に仕事をしている感覚を持つことができています」

テレワークマネジメントでは、自社が販売しているバーチャルオフィスツールの「Sococo」を活用して、完全在宅勤務を実現している。ただ、使っているツールはこれだけではない。自社で開発した「F-Chair+(エフチェアプラス)」は、勤務時間や働いている様子を可視化できる。着席して仕事をしている時間をタイマーで計測し、着席中のパソコンの画面をランダムでキャプチャする。

このキャプチャ機能は、監視が目的ではなく、働いている様子を見えるようにすることで、テレワークでも上司と部下がお互いに安心して働けるようにするための、信頼感醸成を目的としている。着席・退席ボタンで、働いている時間を細かく計測できるため、育児や介護などで定時に働けなくても、自分に合った時間帯を活用して、1日の所定労働時間をしっかり働くことをサポートするツールだ。

「テレワークで1日に働く時間は自由でいいと聞くと、その会社は優しいと思われるかもしれません。でも、出社している人は定時で働いているのに、在宅勤務の人だけゆるく働くと、必ず職場はギクシャクします。在宅勤務の人に甘えも出てきて、良い方向には行きません。テレワークは自由ではなくてあくまでも柔軟であることと、柔軟だけどもきちん働くことが重要だと思っています」

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2. 企業の働き方を変えようとテレワークコンサル会社を設立

田澤氏はコロナ禍になる10年以上前、まだ日本にテレワークや在宅勤務といった言葉が浸透していなかった頃から、企業の働き方を変えようと日本で初めてテレワークの導入コンサルティングを行うテレワークマネジメントを設立した。田澤氏のテレワーク歴は30年を超える。始まりは、女性の働き方を変えていきたいと考えたことだった。

「私は大学を卒業して、電機メーカーに就職し、そこで一生働くつもりでした。それが結婚、子育て、夫の転勤で辞めなくてはいけなくなりました。よくあるパターンですよね。でも、なぜ会社を辞めなければならないのだろうと、じっくり考えてみると、会社に毎日通勤できなくなるからだと分かりました。

そこから、毎日会社に通わなくても働き続けられるような社会になってほしいと考えたのが、テレワークの道に入ったきっかけです。まずフリーランスのライターとして、家で働くことに挑戦し始めました。自宅のPCで原稿を書き、メールで編集部に送る仕事を続けているうちに、自分と同じように家で働きたい女性が多いことを知りました。そういう人たちの力を生かせる会社を作ろうと、在宅で働くスタッフに業務を発注するワイズスタッフを設立しました。

でも、それだけでは社会を変えることはできません。日本の労働者の約9割は雇用されている人たちです。企業が変われば、もっと多くの人が毎日会社に通わなくても働けるようになります。そうして日本の働き方を変えようと考えて立ち上げたのが、テレワークマネジメントです」

田澤氏は在札幌アメリカ合衆国総領事館の推薦で、2008年にアメリカ国務省が実施している国際人物交流プログラム「IVLP」に参加。アメリカと日本では、働き方、労働法、意識が異なることを実感。日本にテレワークを広げるには、日本の従来の働き方に合ったツールが必要だと強く思うようになった。2012年、バーチャルオフィスツール「Sococo」と出会い「これだ!」と直感。自社で活用するとともに、テレワーク用ツールとして、日本版での販売代理を始めた。

「アメリカは西海岸から東海岸まで広いので、離れていてもすぐに集まって会議をするためにバーチャルオフィスが使われていました。でも、私はこのツールは日本にこそ必要だと思いました。別に会議をしなくても、みんなが集まってコミュニケーションをとりながら仕事ができます。一緒に働いている感覚を実現できるので、個人ではなくチームで業務を進める日本の働き方に合っているのです」

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3. どこでも働けるハイブリッド型のオフィスへ

バーチャルオフィス3

ところが、バーチャルオフィスなどのツールの販売を始めても、10年くらいはなかなか売れなかったという。「働き方改革」の必要性が語られても、日本ではテレワークがなかなか広がらなかったからだ。

その状況がコロナ禍で一変する。2020年4月に1回目の緊急事態宣言が出ると、多くの企業が在宅勤務を余儀なくされた。テレワークマネジメントへも、テレワークの相談やツールの問い合わせが急増した。田澤氏は企業が抱える課題を次のように指摘する。

「企業がテレワークを始めてから出てきた課題は、コミュニケーションとマネジメントに関することが大半です。ただ、私はこの2つが大きな課題になるだろうと10年前から予測していましたので、解決策としてバーチャルオフィスとマネジメントツールを用意してきました。

一方で、在宅勤務をしたことで、やはりオフィスは大事だったと気付いた企業や働く人も多いのではないでしょうか。ひとつの場所に集まることで、コミュニケーションでもマネジメントでも、できることがたくさんあります。

満員電車に乗らなくて済み、時間もフレキシブルに使えるテレワークの良さが分かり、オフィスの優れた点にも改めて気付きました。ということは、自宅でできる仕事は自宅で取り組み、オフィスには適宜必要に応じて行く働き方が、ポストコロナではだんだん当たり前になるのではないでしょうか」

リアルとバーチャルのオフィスを組み合わせれば、会社でも、自宅でも、地方でも、サテライトオフィスでも、誰がどこにいても一緒に働くことが可能になる。田澤氏は「これからの時代のオフィスは、今までとは確実に変わっていく」として、未来のオフィスの姿を次のように語った。

「社員の数だけ机を並べるのが今までのオフィスだとすれば、これから求められるオフィスは、社員がベストな状態で働ける場所です。自宅やサテライトオフィス、コワーキングスペースなど、その人が最も働きやすい場所がその人のオフィスになります。

その際に、リアルのオフィスがいらないわけではありません。リアルのオフィスに大きなモニターを常に置けば、バーチャルオフィスで他の社員とつながることができます。さまざまな場所がつながるハイブリッド型のオフィスが、ポストコロナに求められるオフィスの姿ではないでしょうか。

これからオフィスの移転や新設を考えるのであれば、広さよりも便利さや楽しさがあって、仲間にも会えるといった、行きたくなる場所を意識することも必要です。新しい働き方に対応した場所が、未来のオフィスの姿ではないかと思っています」

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4. 在宅勤務を進める企業、コロナ禍前に戻る企業の差は開く

在宅勤務・リモートワークアンケート結果
※貴社では、「新型コロナウイルス」の感染拡大を防ぐため、在宅勤務・リモートワークを実施していますか?

緊急事態宣言下では、大企業を中心に在宅勤務が実施された。しかし、中小企業ではそもそも実施していない企業が多く、実施したものの宣言が解除された後に取りやめるケースも多い。

東京商工リサーチが全国約9800社の大企業・中小企業を対象に実施した2021年3月のアンケート調査によると、在宅勤務・リモートワークを「現在、実施している」と答えた企業は38.49%。「新型コロナ以降、一度も実施していない」は43.83%。「新型コロナ以降に実施したが、現在は取り止めた」企業は17.69%だった。

資本金1億円以上の企業では、「現在、実施している」と答えた企業が69.22%に上る。一方、資本金1億円未満でも、33.06%の企業が「現在、実施している」と回答した。見方を変えれば、中小企業でも3割以上の企業が在宅勤務に取り組んでいるのだ。

この状況を田澤氏は、「企業にとって今がまさに大きな岐路」と表現する。働き方をコロナ前に戻すのではなく、リアルとバーチャルをセットにして変革を進めていくべきだと訴えている。

「働き方をコロナ前に戻している企業は、在宅勤務で生産性が上がらず、上げるための努力もしていないのではないかと思います。生産性が上がらない原因は、おそらく報告・連絡・相談、いわゆる報連相が上手くいっていないからです。バーチャルオフィスは、テレワークだと報連相や雑談ができないといった悩みを解決する方策の一つになり得ます。

実際に在宅勤務で生産性が上がった企業は、決して多くはないと思います。それでも、もう戻れないと考えて、課題の解決に取り組んでいる企業があります。その数が3割を超えると予測します。これだけの企業が変革を進めれば、世の中は確実に変わっていくでしょう。

コロナ前に戻ろうとしている企業に考えていただきたいのは、これから人材不足が深刻になることです。若い世代の人はテレワークを体感していますので、テレワークができない会社には見向きもしなくなり、人材の確保がさらに難しくなる可能性があります。大きな災害やパンデミックが起きたときに対応もできないでしょう。コロナ前に戻るのではなく、ぜひ前に進んでいただきたいですね」

※東京商工リサーチ資料(https://img03.en25.com/Web/TSR/%7B39ca8863-bf33-44ce-8ec6-1c4817983b53%7D_20210318_TSRsurvey_CoronaVirus.pdf)

取材協力

株式会社テレワークマネジメント
https://www.telework-management.co.jp/

田中圭太郎

田中圭太郎
ジャーナリスト・ライター。1973年生まれ。大分県出身。1997年早稲田大学第一文學部東洋哲学専修を卒業。同年大分放送に入社。報道部、東京支社営業部勤務を経て、2016年フリーランスとして独立。ジャーナリストとして雑誌やWEBメディアで社会問題を中心に執筆。相撲ジャーナリストとしても「大相撲ジャーナル」で取材・執筆を担当するほか、インタビュー記事も多数手がけるなどライター・編集者としても活動している。著書は『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。

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