オフィスを働く場所から、エンゲージメントを高める場所へ!これからのオフィスの役割とは|秋沢崇夫氏インタビュー(株式会社ニット)

秋沢崇夫氏インタビュー(株式会社ニット)

企業の経理や営業事務、人事の採用支援など、バックオフィス業務のアウトソーシングをオンラインで受託しているのが、東京・五反田にオフィスを構える株式会社ニット。400人を超えるメンバー全員がテレワークで業務にあたっている。メンバーが暮らす場所は、全国各地に加えて、世界33か国に及ぶ。
ニットは代表取締役の秋沢崇夫氏が2015年に創業。コワーキングスペースを借りて業務をスタートした。社員が10人近く、メンバーが100人を超えたところで、独自のオフィスを持つことを検討。現在は20人ほど仕事ができる広さのオフィスを構えている。ただ、コロナ禍を経て、オフィスは仕事をする場所というよりも、むしろ別の役割が大きくなっているという。メンバー全員がテレワークの会社だからこそ感じるオフィスの役割について、秋沢氏に聞いた。

株式会社ニット代表取締役社長 秋沢崇夫様

秋沢 崇夫(あきざわ・たかお)様
1981年東京都生まれ。青山学院大学卒業。2004年株式会社ガイアックスに入社し、営業、事業開発に関わり営業部長に。32歳で退職後、一人旅の最中にリモートワークを経験。「このスタイルであれば場所や時間に捉われることなく自分らしい生活を実現できる」と実感し、様々な働き方や生き方の選択肢があってもいいのではないかと考えるように。
帰国後「多くの人の働く選択肢を増やしたい」との思いから、HELP YOUを立ち上げる。
現在は、「未来を自分で選択できる人を増やす」というビジョンを掲げて、400人のフルリモートメンバーと一緒に企業経営に邁進している。

1. 400人のメンバー全員がテレワーク

400人のメンバー全員がテレワーク

ニットがメインの事業として展開しているのが、さまざまなスキルを持ったメンバーがチームで企業の業務を支援する「HELP YOU」。経理や営業支援、営業事務、それに採用業務の支援など、バックオフィスの業務を中心に500以上のクライアントにサービスを提供している。

特徴的なのは、現在約400人のメンバー全員がリモートワークをしていることだ。全国各地に加えて、世界33か国で暮らしている日本人メンバーが、完全オンラインで業務にあたっている。女性が8割以上を占め、男性が2割。男女を問わず柔軟な働き方ができることで注目を集める一方、秋沢氏は応募が増えていることの悩みもあると話す。

「メンバーはまだまだ増やしていきたいと考えていまして、たくさんの応募もいただいています。とはいえ、採用できる方は決して多くはありません。課題を提出していただいて、リモートワークで働けるのかどうかをテストした上で採用を決めています。

ただ、採用を見送るケースが多いのも事実です。そこで、2021年からはリモートワークで働くためのスキルが学べる『HELP YOU Academy』を始めました。リモートで働くための実践的なスキルをオンラインのライブ授業で講義して、一緒に働ける仲間を増やそうとしています」

ニットのメンバーは裁量労働制。夜10時から朝5時までの間と、土曜と日曜は業務を行うことを禁止している。といっても、メンバーの働き方を厳密に管理しているわけではない。あくまでメンバー個人の判断に委ねながら、短い時間でパフォーマンスを出すことを促している。

「リモートワークなどで自律性が高い組織の場合、自由な働き方をする自分の権利と、義務とのバランスを取れるかどうかが課題になります。ただ、管理したいわけではないので、それぞれが自律して働くためには、一人ひとりがパフォーマンスを発揮してプロの仕事をする必要があります。その考えを根付かせることで当社は成り立っています」

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2. コロナ禍で年2回のリアルな合宿ができなくなった

秋沢氏はもともとITベンチャーで働くサラリーマンだった。起業して2015年に「HELP YOU」のサービスを開始。2017年に現在の社名に変えた。当初はコワーキングスペースで業務を行っていたが、社員が6、7人に増えて、メンバーが100人を超えた頃にオフィスを構えることを考え始めた。

「コワーキングスペースを利用している時は、お客様との商談や、採用の面談などを会議室で行っていました。オフィスを構えようと思ったのは、一つは社員やメンバーの人数が増えていく中で、コワーキングスペースではここが自分たちの帰ってくる場所だといった帰属意識が醸成しにくいと感じたからです。

もう一つのきっかけは、採用面接の時に『この会社で働くイメージがつきにくい』と言われたことです。企業はそもそもバーチャルというか、概念的なものだと思っていますが、それでも形作る物理的な場所がやはり必要なのかなと思いました。社外に対するブランディングも違ってきます。それで2018年にここ五反田にオフィスを構えました」

ニットのオフィスは20人くらいが働ける広さで、ゆったりした空間に配置された机やカウンター、くつろいで話ができるスペースなどが用意されている。自宅が近い秋沢氏はよく出社するものの、業務はオンラインなので出社する人は少ない。そういう意味では、コロナ禍でも業務に支障はなかった。ところが、コロナ禍では別の問題が浮上したと秋沢氏は説明する。

コロナ禍では別の問題が浮上したと秋沢氏は説明する

「コロナ禍では事業運営には問題がなかったのですが、数少ないコミュニケーションの機会が失われました。当社では年に2回合宿を開催して、全国にいるメンバーに交通費を出して、集まってもらっています。そこで対面でのディスカッションや研修のほか、夜にお酒を飲みながら交歓することも含めてプログラムを展開していました。それが、コロナ禍で集まることができなくなり、去年・今年の合宿と飲み会はオンライン。それでも関係性は構築できるものの、数少ないリアルなコミュニケーションの機会は奪われています」

リアルで会えなくなる一方、オンラインでの交流はコロナ禍以前よりも活発になった。もともと社内にはオンラインのコミュニティが立ち上がっていて、その数は42にものぼる。パワーポイントやSNSのスキルを学び合うものから、ペットや韓流ドラマ、キャンプなどに趣味について語るものまで、メンバーが自発的に活動している。2020年12月には各コミュニティが、テレビ会議やYouTubeでイベントを展開するオンライン文化祭のようなイベントを12時間連続で開催した。

その後、コロナが落ち着いてきて、オフィスに顔を出すメンバーが徐々に増えてきた。ただ、メンバーがオフィスに求めているものがコロナ前とは変わってきたと、秋沢氏は感じている。

「オフィスには仕事をするためよりも、どちらかといえば遊びに来るメンバーが増えました。雑談や食事など、対面でのコミュニケーションを楽しんでいます。業務はオンラインで完結できるので、やはり会って誰かと話をしたいと考えるのでしょう。家でずっとパソコンに向かっているだけだと、メンタルの面でもよくないですよね。だからオフィスに来ること自体が気分転換になっているのかもしれません」

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3. オフィスはエンゲージメントを高める場所へ

オフィスはエンゲージメントを高める場所へ

こうした変化を通じて秋沢氏は、オフィスを働く場所から、メンバーとのエンゲージメントを高める場所にしたいと考えている。

「メンバーは全国、世界にいますので、集まることができない方々とのつながりは、オンラインで全社的に作っています。リアルな場所を完全になくすことも可能ですが、個人的には会える人とは年に1回くらいは会って、コミュニケーションをとっていきたいと思っています。

実際に会うと、普段オンラインで話しているので初めて会った気がしないこともあれば、『そんなに背が高かったんですね』と驚くこともあります(笑)。対面でのコミュニケーションによって五感で情報を得て、お互いのことを感じ合うことができるのは人間に特有な能力です。オフィスはそのための場ですね」

秋沢氏はコロナ禍が落ち着いて、徐々にメンバーがオフィスに集まってくる中で、オフィスを構えることのメリットも感じているという。それはコミュニケーションから偶然のアイデアが生まれることだ。

「よくセレンディピティと言いますが、集まってコミュニケーションをとった方が、よりアイデアが出やすくなる感覚があります。アジェンダに沿って意図的に考えるのではなくて、たわいのない会話からアイデアが偶然生まれてくることを何度も経験しました。これもオフィスを構えてよかったと思うことですね」

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4. オフィスを一人ひとりに合わせて使い分ける

ニットがオフィスを構えて3年が経つ。コロナ禍も経験して、これから変えていきたい点も出てきていると秋沢氏は話す。

「今思っていることの一つは、集中できるスペースを作ることです。現在はオープンなスペースがほとんどで、近くで誰かが話していると、気になることもあります。また、多くのメンバーがWEB会議をしているので、個室のブースや、集中して仕事ができるブースも必要です。ブースのエリアと、みんなで気軽に話せるコミュニケーションを重視したスペースを分けることを考えています。

もう一つは、オフィスを全員が一律に来る場所にするのではなく、一人ひとりの事情に分けて使い分けることです。新入社員や新しいメンバーはまだ人間関係ができていないので、オンラインだけの情報だと、自分がどこまでやっていいのか分からないことがあります。

その場合はオフィスに来て、育成担当のメンバーから仕事を学び、慣れてきたら在宅に移行するなど、それぞれの人のフェーズによって使い分けるのが、いいのではないでしょうか。オフィスをコミュニケーション中心の場にしていくことが、コロナ禍が明けたあとの新しいスタイルになると思っています」

コロナ禍では緊急事態宣言中に在宅勤務を実施したものの、宣言が解除されると元の働き方にもどしている企業も少なくない。中小企業を中心に、そもそも在宅勤務を実施しなかった企業も多い。2015年から完全テレワークで事業を進めてきた秋沢氏は、オンラインでの業務を構築できるかどうかで、今後は採用での競争力に差が出てくると指摘する。

オンラインでの業務を構築できるかどうか

「全員遠隔で働けることで、本当に優秀な方々が採用できます。東京に本社を置いて通勤を前提にすると、遠くても神奈川、埼玉、千葉に住む人までしか採用できませんが、私たちは全世界に住む優秀なメンバーと働くことができています。オフィスへの出勤にこだわっていたら、採用できなかった方々でしょう。大企業の中には在宅勤務を本格的に導入しはじめたところもありますが、全体としてはまだまだです。私たちにとってこの状況はチャンスだと思っています。

コロナ禍でテレワークを一度は経験して、遠隔で仕事はできると分かった今、どの会社もオフィスに出社する理由や、オフィスの存在意義を見直しつつあると思います。在宅で仕事して、副業までしていると、自分がどの会社に所属しているのかだんだん分からなくなります。その時に、『この会社で働いている』と感じさせる場所として機能するのがオフィスではないでしょうか。全員がテレワークで働いていても。集まる場所があることは重要だと思っています」

取材協力

株式会社ニット
https://knit-inc.com/

よくある質問

株式会社knitのオフィスはどこにありますか?
株式会社knitの所在地は、〒141-0031東京都品川区西五反田 7-22-17 TOCビル 10F 41号 になります。
株式会社knitへ問い合わせするにはどうしたらよいですか?
公式サイトからお問い合わせください。https://knit-inc.com/
アウトソーシングとは何ですか?
アウトソーシング(Outsourcing)とは、業務自体を外部へ委託することで、派遣や業務委託とは異なります。BPO(ビジネス プロセス アウトソーシング)とも言われ、近年、労働不足やBCP対策でアウトソーシングの需要が高まっています。

田中圭太郎

田中圭太郎
ジャーナリスト・ライター。1973年生まれ。大分県出身。1997年早稲田大学第一文學部東洋哲学専修を卒業。同年大分放送に入社。報道部、東京支社営業部勤務を経て、2016年フリーランスとして独立。ジャーナリストとして雑誌やWEBメディアで社会問題を中心に執筆。相撲ジャーナリストとしても「大相撲ジャーナル」で取材・執筆を担当するほか、インタビュー記事も多数手がけるなどライター・編集者としても活動している。著書は『パラリンピックと日本 知られざる60年史』(集英社)。

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